日本政府は、深刻化する人手不足への対応として、生産性の向上や国内人材の確保のための取組をおこなってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるため、在留資格「特定技能1号」及び「特定技能2号」を創設し、平成31年4月から実施を開始しました。
そして令和5年6月9日閣議決定により、特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(分野別運用方針)の変更が行われ特定技能在留資格の受入れ枠が大幅に増えました。当コラムでは「特定技能」の在留資格について解説いたします。
特定技能の在留資格とは?
特定技能の在留資格は、日本で深刻な人手不足が問題となっている業種で外国人労働者を受け入れるために、2019年に新設された在留資格です。この資格は、日本で特定の技能を持ち、その技能を活かして就労する外国人が取得できるもので、一定の業務範囲で働くことが可能です。
日本の在留資格のうち就労が許される在留資格であっても、日本人の雇用機会を奪うことがないよう、外国人が就労できるのは、特定の高度な技術等を必要とする「専門職」だけになっています。永住者、定住者、配偶者、留学(週28時間まで)を除くと、「単純労働」が許されているのは、この特定技能だけとなります。
また特定技能は他の就労系在留資格とは違い、所定の試験に合格する必要があるものの、母国での学歴や職務経験が問われないのも大きな特徴となっています。そのため、他の就労系在留資格を取るよりも比較的取得がしやすく、また人材確保が必要な企業にとっても使いやすい在留資格と言えるでしょう。
対象業種と主なポイント
特定技能1号
日本国内の労働力不足を補うための在留資格で、特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験、技能を要する業務に従事する外国人が取得できます。
- 対象業種:(令和6年4月1日現在・法令の改正を行った後に受入れ開始予定を含む)
- 介護:老人ホーム等で身体介護業務に従事します。訪問介護のようなサービスには従事できません。
- 工業製品製造業:機械金属加工など工業製品製造分野に従事します。
- 船舶・船用工業:造船、船用機械、船用電気電子機器の業務に従事します。
- 航空:空港グランドハンドリング業務、航空機整備業務などに従事します。
- 自動車運送業:トラック、バス、タクシーによる運送業務に従事します。
- 農業:農作物の収穫、選別、管理、農産物を使用する製造、加工、運搬、陳列などに従事します。
- 飲料品製造業:食品の製造、加工、衛生管理などの業務に従事します。
- 林業:育林、林業にかかる素材生産などの業務に従事します。
- ビルクリーニング:ビルやホテルなどの内部清掃業務に従事します。
- 建設:左官、土工、屋根ふき、電気通信、鉄筋施行、建設機械施工などに従事します。
- 自動車整備:自動車の機能維持を目的としたメンテンナンス業、修理業などに従事します。
- 宿泊:ホテル、旅館などの宿泊施設で宿泊サービス関連業務に従事します。
- 鉄道:鉄道の軌道整備、電気設備整備、車両整備などの業務に従事します。
- 漁業:農産動植物の採捕、処理、保蔵などの業務に従事します。
- 外食業:飲食物の調理、接客、店舗運営、デリバリーなどの業務に従事します。
- 木材産業:製材業、合板製造業など木材の加工業務に従事します。
- 技能レベル:
業務に必要な一定の専門性や技能を持っていることが求められます。
入国前の母国で技能試験や日本語能力試験に合格する必要があります。 - 在留期間:1年を超えない範囲内で法務大臣が個々の外国人について指定する期間ごとの更新(通算で上限5年まで)。
- 家族帯同:原則として家族の帯同は認められていません。
特定技能2号
特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人が取得できる資格です。特定技能1号より専門的な技術と経験を必要とします。
- 対象業種:(令和6年4月1日現在・法令の改正を行った後に受入れ開始予定を含む)
これまで特定技能1号の12の特定産業分野のうち、建設分野及び船舶・船用工業分野の溶接区分のみが対象となっていましたが、令和5年6月9日閣議決定により下記のように9分野が追加されることが決まりました。- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
- 建設
- 船舶・船用工業分野のうち溶接区分以外の業務区分
- 技能レベル:
業務に必要な一定の専門性や技能を持っていることが求められます。
原則として試験等での確認は不要となっており、特定技能1号から2号へ移行するケースが多くなっています。 - 在留期間:3年、1年又は6ヵ月ごとの更新(更新回数に制限なし)。
- 家族帯同:要件を満たせば配偶者、子供の帯同が認められます。
特定技能1号と2号の違い
- 技能レベル:1号は比較的基礎的な技能が求められ、2号はより高度で熟練した技能が必要です。
- 家族帯同:1号では家族を日本に連れてくることができませんが、2号では要件を満たせば可能です。
- 在留期間:1号は最長5年までですが、2号は更新に制限がなく、長期滞在が可能です。
特定技能制度の運用状況
コロナ禍の影響が収まりつつある中で、特定技能外国人の受け入れが増加しています。特に建設、造船、自動車整備などの分野で人材不足が続き、多くの企業がこの制度を活用して即戦力の労働力を確保しています。
(出典:出入国在留管理庁 特定技能制度運用状況)
特定技能資格取得の流れ
ここでは日本以外に住む外国人が特定技能1号の資格を取得して日本に入国するまでの大まかな流れを説明します。相手国によってその国が定める独自の手続きがある場合もあり、また日本に別の資格ですでに在留している場合等、必要な手続きは異なっており、特定技能の在留資格を希望する外国人、特定技能の在留資格で外国人を雇用したい日本の企業は、早い段階で専門家のサポートを受ける必要があります。
特定技能1号在留資格は令和6年9月現在で16種類の分野に分かれています。この分野はその時々の社会情勢や社会的影響、要請によって度々変更されます。
希望する分野が特定技能の対象かどうか、早い段階で専門家と相談して検討する必要があります。
特定技能の資格を取得するには、希望する分野に対応した特定技能評価試験を受験して合格する必要があります。また、基本的な日本語能力を証明するための「日本語能力試験」や、「特定技能測定試験(日本語)」に合格することが求められます。
試験は国内外で行われており、試験日程や場所は事前に確認する必要があります。
試験に合格した後、特定技能で就労するためには、日本の企業や業務を提供する団体との雇用契約を結ぶ必要があります。この契約は、特定技能ビザの申請に必要な書類の一部となります。
求人募集に直接申し込む、民間の職業紹介事業者による求職のあっせんなどを利用すると良いでしょう。
受入れ機関自体が満たすべき基準
- 18歳以上であること
- 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
- 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
- 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
- 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないこと等)に該当しないこと
- 特定技能外国人の活動内容に係る文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
- 外国人等が保証金の徴収等をされていることを受入れ機関が認識して雇用契約を締結していないこと
- 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
- 支援に要する費用を、直接又は間接に外国人に負担させないこと
- 労働者派遣の場合は、派遣元が当該分野に係る業務を行っている者などで、適当と認められる者であるほか、派遣先が①~④の基準に適合すること
- 労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
- 雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
- 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと
- 分野に特有の基準に適合すること(※分野所管省庁の定める告示で規定)
外国人本人の要件(抜粋)
- 18歳以上であること
- 健康状態が良好であること
- 退去強制に円滑な執行に協力する外国政府が発行した旅券を所持していること
- 技能試験及び日本語試験に合格していること
- 特定技能1号で通算5年以上在留していないこと
- 保証金を徴収されていないこと又は違約金を定める契約を締結していないこと
- 自らが負担する費用がある場合、内容を十分に理解していること
企業が特定技能外国人を雇用する場合、企業側は在留資格認定証明書(COE)の申請を行います。この申請は、出入国在留管理庁に対して行います。
出入国在留管理庁が申請内容を審査し、問題がなければ在留資格認定証明書が発行されます。この証明書を持って次のステップに進みます。
在留資格認定証明書を受け取った後、外国人労働者は日本国外にいる場合、最寄りの日本大使館または領事館でビザ申請を行います。申請が通れば、特定技能ビザが発行されます。
ビザが発行されたら、日本に入国し、空港で在留カードを受け取ります。これにより正式に日本での特定技能在留資格が認められます。
特定技能ビザの取得後、契約を結んだ企業での就労を開始することができます。
まとめ
いかがだったでしょうか。
特定技能在留資格は、日本で人手不足が深刻な分野において外国人労働者を受け入れるために創設された特殊は在留資格です。在留資格の中では数少ない「単純労働」が可能な在留資格で、この資格制度が創設された当時は、「事実上の移民政策」と言われた経緯があります。
しかし特定技能1号でも特定技能2号でも、その分野における技能試験、日本語能力の試験が要件となっており、単純な意味での単純労働者の受入れとはやや異なります。
急速な少子高齢化と労働者不足が多くの業種で深刻になっている日本において、外国人労働者の受入れは日本社会の維持発展に避けては通れないものであると感じています。欧米の多くの国が移民を受け入れることによって経済発展を続けるなか、日本においてもこの制度をきちんと運用することが求められています。
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