法定相続分とは、被相続人が遺言を残さなかった場合に、相続人が法に基づいて取得する相続財産の割合の目安を指します。日本の民法では、配偶者や子ども、父母、兄弟姉妹などの法定相続人が、それぞれ決められた割合で財産を相続する権利を持っています。法定相続分は、相続人間の公平な分配を目的としており、相続手続きの基本的なルールとなりますが、場合によっては遺言や遺産分割協議によって異なる分配が行われることもあります。
当コラムでは民法に規定された「法定相続分」について具体例を挙げて解説すると共に「遺留分」等、民法に規定された様々な相続に関する規定を取り上げます。
遺言書を作成するときには、下記の規定を意識して法的に有効で争いを未然に防ぐ必要があります。
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法定相続分とは?
民法
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
「法定相続分」とは、民法で定められている相続財産の分け方による相続割合の「目安」をいいます。
法定相続分は下記の個別事情による遺産の分割がある場合には、その分割割合が優先されます。
- 遺言による相続分の指定
- 遺言に定めた第三者による相続分の指定
- 共同相続人間の遺産分割協議による分割割合
民法で定められた相続の順位と割合
上位の相続人がいる場合、下位の相続人は相続権を有しません。
配偶者は常に相続人となります。
「相続割合」は下位の相続人がだれかによって変わってきます。
- 他に法定相続人がいない場合:1/1(100%)
- 第1順位の子・孫がいる場合:1/2
- 第1順位がおらず第2順位の父母がいる場合:2/3
- 第1順位、第2順位がおらず第3順位の兄弟姉妹がいる場合:3/4
なお、この「配偶者」とは法律上の婚姻をしている者のことであり、内縁関係にある者は含みません。
子は第1順位の相続人となります。
被相続人に配偶者がいる場合には1/2を相続し、子が複数いる場合には1/2を等分します。
被相続人に配偶者がいない場合(先に亡くなっていた場合等)は相続財産の全額を子(または孫)が相続します。
なお子が数人いる場合には、男女、誕生順序、実子か養子の別、先妻の子か後妻の子かの別、嫡出子か非嫡出子かの別、に区別はなく、全ての子が同順位で相続し、その人数で等分します。
養子は普通養子の場合、実親の相続権もありますから、実親と養親の両方について相続権を持つことなりますが、特別養子の場合、実親との血縁関係は絶たれますので実親に対する相続権はありません。
(例)相続人が配偶者と子2人の場合
「嫡出子」とは法律上、正妻または法律で認められた配偶者の間に生まれた子供を指します。一方「非嫡出子」とは婚姻関係にない男女の間で生まれた子を指します。かつては嫡出子の方が法的に優先権がありましたが、現在は嫡出子、非嫡出子ともに同じ相続権を有しています。
なお、女性の場合は出産という事実があることから認知の問題は生じませんが、男性の場合は認知をしなければその相続人となることはできません。
民法779条では、「嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる」(任意認知)としており、民法787条では、「子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる」(強制認知)としています。また認知は通常「認知届」を市町村役場に提出することによって行いますが、遺言によって認知することも可能です。
子が相続人になる場合で、被相続人(亡くなった人)の死亡の前に、その子が先に亡くなっていた場合、その者の子(被相続人の孫)が相続権を有します。これを「代襲相続」といいます。
更にその孫も先に亡くなっていた場合は、孫の子(被相続人の曾孫)が相続人となります。これを「再代襲相続」といいます。
なお例えば孫が代襲相続人となる場合、子が亡くなっていたとしても代襲相続人である孫が第1順位の相続人となり、第2順位以降の人は相続権を有しません。
第1順位の子・孫がいない場合にのみ第2順位である被相続人の父母が相続人となります。
被相続人に配偶者がいる場合には父母は1/3の相続権を有し、被相続人に配偶者がいない場合(被相続人が未婚であったり、配偶者が先に亡くなっている場合など)は相続財産の全額を父母が相続します。
なお父母が相続権を有する場合、その相続分は等分されます。また父母のどちらかがいる場合、祖父母は相続権はなく、代襲相続はありません。
(例)相続人が配偶者と父、母の場合
第1順位の子・孫、第2順位の父母・祖父母がいない場合のみ、第3順位である兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人に配偶者がいる場合には1/4の相続権を有し、被相続人に配偶者がいない場合(被相続人が未婚であったり、配偶者が先に亡くなっている場合など)は相続財産の全額を兄弟姉妹(または甥・姪)が相続します。
なお兄弟姉妹が複数居て相続権を有する場合、その相続分は等分されます。
(例)相続人が配偶者と兄、弟、妹の場合
子または父母が相続人となるときで、その子または父母が先に亡くなっていた場合、孫または祖父母が代襲相続人になり、さらにその孫または祖父母も先に亡くなっていた場合は、曾孫または曽祖父母が「再代襲」することは先に述べた通りです。
しかし兄弟姉妹が相続人になった場合で兄弟姉妹が先に亡くなっていたときは、その子である甥、姪が相続人となります。(代襲相続)しかし、兄弟姉妹の場合「再代襲」はされません。つまり甥、姪の子(又甥、又姪)は相続人となることはありません。
兄弟姉妹が相続人となる場合で、その兄弟姉妹のうち、被相続人と父・母を同じくする兄弟姉妹(全血兄弟姉妹)と、別の母(または父)と被相続人との間に生まれた兄弟姉妹、つまり父または母だけを同じくする兄弟姉妹(半血兄弟姉妹)はいずれも相続人になりますが、半血兄弟姉妹の法定相続分には全血兄弟姉妹の法定相続分の1/2となります。
その他の相続に関する様々な規定
日本の民法では、上記の法定相続人や法定相続分に関する規定の他に、遺言の効力など、相続に関する詳細な規定が設けられており、これに基づいて相続が行われます。以下に相続に関わる民法の規定を解説します。
遺言書の効力
遺言書は亡くなられた人の最後のメッセージです。法律上有効に作成された遺言書がある場合、上記の民法に規定された法定相続分に優先して遺言の内容に沿った相続が行われます。
遺言では下記の事項を指定することができます。
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定
- 遺産分割の禁止(ただし、相続開始のときから5年を超えない期間に限る)
- 遺留分侵害額請求に対する負担者の順序
- 遺言執行者の指定
- 未成年後見人・未成年後見監督人の指定
- 相続人相互の担保責任の指定
単純承認と限定承認
相続人は相続の開始があったことを知ったとき(一般には死亡を知った日)から3ヵ月以内に「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかを選択しなければなりません。
単純承認
単純承認とは相続の効果が無制限・無条件に相続人に帰属することをいいます。
どんなに借金などのマイナス財産の方が多くても、これを引き継がなければなりません。単純承認は下記のような場合は何ら手続きをしなくても単純承認したものとみなされるため、注意が必要です。
- 相続の方法を選択する前の相続財産の一部または全部の処分
- 熟慮期間(3ヵ月)を経過した場合
- 相続の方法を選択後に相続財産の一部または全部を隠匿、消費、または限定承認の際に提出する財産目録に記載をしなかった場合
限定承認
限定承認とは、被相続人から承継する相続財産(プラスの財産)の限度で、相続債務(借金等)を弁済(借金の返済)をする相続の方法です。
「相続する財産はあるけど、借金がどれくらいあるか分からない」
「被相続人が複数の人の保証人になっていたから将来どれくらい保証責任を負うか不安」
というような場合に、この限定承認を検討します。
限定承認をしようとする場合は下記の手続きが必要です。
- 相続財産目録を作成する
- 熟慮期間(3ヵ月)以内に家庭裁判所に財産目録を提出する
- 「相続人全員」で家庭裁判所に対して限定承認する旨の申し出をする
なお、限定承認は相続人全員の同意が必要で、一部の相続人だけですることはできず、また限定承認が一旦受理された後は、熟慮期間中であってもこれを取り消すことはできません。
相続放棄
相続放棄とは、相続財産についてプラス財産もマイナス財産も一切引き継がないとする意思表示で、相続放棄をした場合、民法上は当初から相続人とならなかったものとみなされます。下記の特徴があります。
- 欠格や廃除と違い代襲相続はおきません。したがって相続放棄をした場合、その者の子が代襲して相続することもできません。
- 限定承認と違い、相続人のうち1人でも単独で行うことができます。
- 熟慮期間(3ヵ月)のうちに家庭裁判所に申し出て行います。
- 相続放棄が受理された後は、熟慮期間中であってもこれを取り消すことができません。
- 相続放棄は相続の開始前に行うことはできません。相続人となる他人の弱みに付け込んで、あるいは相続人を脅して、相続を予め放棄させることを防止するためです。
特別受益・寄与分・特別寄与制度
民法は、遺産が各共同相続人に実質的に公平に分割されるように、「現有財産を法定相続分に従って分ける」という原則に2つの修正を加えています。
特別受益
特別受益とは、被相続人の生前に受けた生活のための贈与、遺言による贈与(遺贈)のことをいいます。
被相続人から生前に受けた贈与財産および相続開始時にある財産を合計したものを相続財産とみなして各相続人に実質的に公平になる様に調整するのがこの制度です。
例えば生前に長男が時価1,000万円の土地を父(被相続人)から譲り受けた場合、その財産を相続財産に含めて相続税の計算をします。なお、この財産の価格は「相続開始時の価値」を基準に判断されるため、この譲り受けた土地が1億円の価値になっていた場合、1億円が相続財産として加算されます。
なお、配偶者が居住用の自宅の贈与を受けた場合、その財産の持戻しを免除する制度があります。詳しくは下記の「残された配偶者を守る制度」をご参照ください。
寄与分
寄与分とは、共同相続人のうち、「被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした者」がいる場合、その者に寄与に相当する特別の補償として、その分だけ寄与者の相続分を増加させる制度です。
寄与分は原則として相続人全員の協議で決めますが、協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停や審判でその額を決めてもらうことができます。
たとえば長男が父(被相続人)の老後に父の生活を支えるため援助していた場合など寄与分が認められます。ただし寄与分は「共同相続人」しか主張することができない為、長男の嫁が老後の面倒をみた場合でも寄与分の主張はできません。また配偶者や親子で通常の療養監護などは、「特別の寄与」とは認められません。
寄与分が認められた場合、その財産額は相続財産から除外して計算され、寄与者の最終的に決まった本来の相続分に寄与分が加算されます。
特別寄与制度
特別寄与制度とは、相続人以外の人が「無償で被相続人の療養監護を行った場合」相続人に対して金銭を請求することができる制度です。
相続人が被相続人の療養監護に尽くしていると、分割協議で寄与分を主張することができますが、内縁の妻など相続人以外の人はどんなに貢献しても寄与分の主張ができない為、この制度があります。
なお寄与の対価(特別寄与料)は当事者で協議しますが、協議が整わないときは家庭裁判所に対して処分を請求できます。またこの制度は相続開始及び相続人を知ったときから6ヵ月を経過したとき、または相続開始から1年を経過すると請求できなくなります。
寄与者が相続人から受けた特別寄与料は、寄与者が相続財産から遺贈により取得したものとみなされ、相続税の対象となります。
残された配偶者を守る制度
民法には残された配偶者の生活を守る制度がいくつか存在します。
下記のコラムで解説します。
相続欠格と廃除
ある特定の事情がある相続人に対して相続する権利を奪う制度です。
なお、この制度によって相続権を失った場合であっても、その者の子・孫が代襲相続をすることは可能です。
この点は上記の「相続放棄」の場合と異なります。
相続欠格
相続欠格とは、相続人が下記の民法の列挙する欠格事由がある場合、何らの手続きを踏むこともなく、当然に相続権を失わせるものです。
- 故意に被相続人、または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡させ、または死亡させようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人の遺言の妨害(偽造・変造・破棄・隠匿等)行為をした者
廃除
廃除とは、被相続人が特定の相続人に相続させることがどうしても許せない下記のような事情がある場合に、被相続人が家庭裁判所に請求して、その審判によってその相続人の相続権を失わせる制度です。
- 被相続人に対する虐待、侮辱
- 推定相続人の著しい非行
なお、この廃除は、下記に説明する「遺留分」を有する推定相続人に対してのみ請求できます。なぜなら「遺留分を有しない推定相続人」に対しては、遺言で相続をさせない旨の意思を示せば、その者に一切相続させないことができるからです。
遺留分
被相続人が遺した遺言で「全財産を愛人Aに相続させる」等の財産処分の方法について指定があった場合、相続人に一定の財産を請求できる権利(遺留分侵害額請求権)を認める制度です。
遺言作成の際には必ず考慮しなければならない権利ですので、別コラムをご参照ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
民法は残された財産を相続人間で公平に分配する様々な制度を規定しております。
被相続人となる者は制度を理解して慎重に遺言書を作成する必要があり、相続人は各制度によって守られた権利をきちんと主張する必要があります。
争う相続を防ぐために各専門家の助けを借りて早めに対処することが肝要です。
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