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相続税対策③ 不動産の相続対策、準備できていますか? 資産を守り、円滑な承継を目指すために

あなたが所有する不動産は、相続時に大きな資産となる一方で、適切な対策を講じなければ、相続税の負担や家族間のトラブルを引き起こすリスクもあります。早めの対策が、将来的なトラブル回避や税負担の軽減につながります。本記事では、不動産の相続における基本的な対策から、具体的な節税方法、専門家の活用法まで、相続診断士、宅地建物取引士の資格を持つ行政書士が知っておくべきポイントを解説します。大切な資産を守り、次世代に円滑に引き継ぐための準備を、今から始めましょう。

所有する不動産の相続対策には、次のような方法があります。相続税の軽減や、円滑な相続手続きを進めるための準備がポイントです。

目次

不動産の相続対策について

あなたがお持ちの自宅、駐車場、投資用不動産等はそのまま相続が発生してしまうと思わぬ相続税の負担が発生したり、うまく分割することができず残された家族の間でトラブルになってしまうことが多々あります。

まずは今お持ちの不動産の価値をしっかりと把握して、しかるべき対策を早めに立てておくことは、あなたの大切な財産を次の世代に円満に移すためにとても大切なことです。

1. 生前贈与の活用

不動産の一部を生前に贈与することで、相続時の財産総額を減らし、相続税の負担を軽減することができます。特に「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」を利用することで、贈与税が課税される場合でも、相続税の基礎控除額を考慮して相続財産を抑えることで相続税の負担を抑えることが可能です。

2. 小規模宅地等(敷地)の特例の適用

相続時に一定の条件を満たすと、自宅や事業用の不動産については評価額が大幅に減額される「小規模宅地等の特例」を利用できます。これにより、相続税の負担を大きく減らすことができます。

小規模宅地等の特例とは?

自宅の敷地や事業を営んでいる土地(店舗用の敷地など)の評価額が高額となり、相続時に相続税を支払うために、その自宅の敷地や店舗用敷地を売却せざるを得なくなるケースが多々あります。

最低限の居住または事業の場を確保するという観点から設けられている特例です。

この特例は、相続または遺贈(遺言による贈与)により取得した宅地が被相続人(亡くなった人)の居住用、事業用、貸付事業用(アパートなど貸している)に供されていた場合に、その宅地のうち一定の地積(面積)まで通常の相続税評価額(相続税計算のための価額)から一定割合を減額できる制度です。

適用対象

  • 被相続人または被相続人と生計を一にする親族の宅地であること
  • 居住用、事業用または貸付事業用の宅地であること
  • 相続税の申告期限までに遺産分割が成立していること

この特例の適用対象となる宅地(建物または建築物の敷地の用に供されているもの)は、被相続人または被相続人と生計を一にしていた(生活費を共有していた、または同じ家計で暮らしていた)被相続人の親族の居住用、事業用または貸付事業用に供されていた宅地で一定の要件を満たすもの。

ただし、この特例は相続税の申告期限(相続があった(死亡した)ことを知ってから10ヵ月以内)までに遺産分割が成立していなければ適用を受けることができません。なお、申告期限までに遺産分割が成立していなかった場合において、申告期限から3年以内に遺産分割が成立したときは、この特例の適用を受ける旨の申告書を提出することができます。

減額割合と減額となる地積(面積)

特例の減額割合は、適用を受ける宅地の種類に応じて以下の通り決められています。

適用対象宅地減額割合減額となる地積(上限)
居住用宅地80%330㎡
事業用宅地80%400㎡
貸付事業用宅地50%200㎡
  • 被相続人の居住用宅地が複数ある場合には、主として居住の用に供されていた1つの宅地に限られます。(被相続人と生計を一にする親族の居住用宅地についても同じ)
  • 一の宅地について共同相続があった場合には、取得した者ごとに適用要件を判断します。
  • 居住用宅地と事業用宅地については、それぞれの上限面積まで併用ができます。
  • 貸付事業用宅地と他の宅地に適用する場合は限度額の調整が必要。

④の調整は少々複雑なため、税理士や税務署等、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

適用を受ける際の注意事項

居住用宅地の場合

  • 被相続人の配偶者が取得した場合、申告期限までに居住も所有も必要ありません。(申告期限の段階でその敷地を売却してしまっていても適用を受けることができます)
  • 被相続人の同居親族が取得した場合、申告期限までに居住し所有を継続している必要があります。
  • 被相続人の同居以外の親族が取得した場合、申告期限までに所有を継続していることが条件となります。居住をしていなくても適用を受けることができます。
  • 老人ホームなどに入居していて、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地についても一定の要件を満たせば、被相続人の居住用とみなされます。

事業用宅地の場合

  • 被相続人の事業用宅地を取得した親族が申告期限までにその事業を継続し、その宅地を所有し続けた場合のみ適用を受けることができます。つまり相続発生後、相続税の申告期限までにその宅地を売却していたり、事業をやめてしまった場合は適用を受けることができません。
  • 相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地は特例の対象から除外されます。つまり、この特例の適用を受けるために相続開始前ぎりぎりに事業を始めた宅地については適用を受けることができません。

貸付事業用宅地の場合

  • 被相続人の貸付事業用宅地(アパートなどを建てて貸している場合)を取得した親族が申告期限までにその貸付事業を継続し、その宅地を所有し続けた場合のみ適用を受けることができます。つまり相続発生後、相続税の申告期限までにその宅地を売却していたり、貸付事業をやめてしまった場合は適用を受けることができません。
  • 相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地は特例の対象から除外されます。つまり、この特例の適用を受けるために相続開始前ぎりぎりに貸付事業を始めた宅地については適用を受けることができません。

小規模宅地の特例の計算例

それでは小規模宅地の特例を適用した場合の計算例を見てみましょう。

  • 被相続人の居住用宅地の敷地面積:400㎡
  • 相続税評価額:1億円
  • この敷地を相続する人:配偶者
  • 被相続人はこの土地以外の土地は所有していない

本特例の居住用宅地に該当するため、330㎡まで80%減額になります。

1億円x330㎡/400㎡x80% =6,600万円

したがって相続税の課税価格に算入されるこの敷地の価額は

1億円-6,600万円=3,400万円

3. 不動産(建物)の評価額を抑える

2.で敷地の評価額を抑える特例をご紹介しましたが、建物についてはどうでしょうか。不動産(建物)の相続税評価額は、実際の市場価格よりも低いことが一般的(市場価格の70%程度)ですが、あえて賃貸物件にすることでさらに評価額を下げることができます。賃貸中の建物は、貸家として評価されるため、通常より低い評価額が適用されます。

自用建物(自宅、別荘など)の評価

自用建物評価額=固定資産税評価額x1.0

つまり自用(自分で住んでいるか、自分のために所有している)建物は固定資産税評価額そのものの価額で評価されます。

貸付用建物

貸付用建物(人に貸している建物)は、利用に制限があるという観点から一定の評価額の減額があります。

貸付用建物の評価額=自用建物評価額x(1-借家権割合x賃貸割合)

借家権割合:30%(国税庁が地域ごとに定めており、通常は30%とされています)
賃貸割合:建物の一部を貸し付けている場合は、貸し付けている部分の割合(賃貸割合)を乗じて評価額を計算します。

自宅をそのまま自宅として遺した場合と4階建てアパートを建てて、4階を自宅として使い、1階~3階を貸している場合の評価額の違いを見てみましょう。(建物の固定資産税評価額1億円の場合)

自宅のまま相続した場合の評価額は1億円となります。

自宅をアパートにして3/4を貸している場合は
1億円x(1-30%x75%)=1億円x(1-0.225)=1億円 x 0.775=7,750万円

固定資産税評価額とは?

固定資産税評価額とは、市町村が毎年の固定資産税を課税するために、土地や建物などの固定資産に対して評価する価格です。この評価額は、固定資産税の基礎となるもので、評価額に基づいて税金が算出されます。固定資産税評価額は、市町村の担当部門が行う評価基準に基づき、土地の地価や建物の築年数、用途などを考慮して決定されます。

評価額は市場価格とは異なり、通常、時価(実際に取引される価格)よりも低めに設定されることが多いです。固定資産税の課税標準額として、一定の基準に従って計算され、3年に一度見直されることが一般的です。

4. 納税資金の準備

不動産を相続する場合、相続税の支払いが現金で必要となります。現金が不足している場合、納税が困難になり所有している不動産を売却しなくてはならなくなる場合もあります。更に不動産はすぐに換金できるとは限らず相続税の支払いに苦慮することも考えられます。

早めに必要な相続税の金額を把握して、死亡保険の活用や十分な預貯金の確保といった納税資金の準備が必要です。

5. 専門家の活用

不動産の相続は資産価値が高く各種税制や特例など、考慮すべき点が多岐に渡ります。自分一人で悩むのではなく早い段階で各専門家の意見を聴いて対策に取り組むことが大切です。
以下に「不動産の相続の準備」に関して相談できる専門家や機関をご紹介します。

  • 不動産査定サイト
    インターネット上には、物件の所在地や面積、築年数などの情報を入力すると、おおよその市場価格を自動で算出する無料の不動産査定サイトがあります。これらは迅速で簡単に使える反面、正確さには限界があるため、参考値として使用するのが良いでしょう。

  • 不動産会社
    不動産の売却や賃貸を取り扱う不動産会社に直接査定を依頼する方法です。現地調査や市場動向、近隣の売買実績などを考慮したより具体的な査定が得られます。無料で査定を行う会社が多いですが、複数社に依頼して相場を比較することが重要です。ただ査定を依頼するとその後の営業電話など煩わしく感じる方もいらっしゃいます。

  • 不動産鑑定士
    不動産鑑定士は公正な立場で不動産の適正な価値を算出する専門家です。法律や市場動向、土地の特性などを考慮し、詳細な鑑定評価を行います。特に、相続や裁判で不動産の価値が重要になる場合、正式な鑑定書を必要とするケースで活用されます。費用はかかりますが、信頼性の高い評価を得ることができます。

  • ファイナンシャルプランナー
    相続を見据えた資産運用や相続税対策について、ライフプランを考えた助言を行います。

  • 相続診断士
    相続に関して全般的な知識を有し、法的手続きのみならず円滑な相続を実現するためのアドバイスを得ることができます。必要に応じて各士業者と連携して相続全般のコーディネーターとして助言します。

  • 税理士
    相続税の申告や計算を行います。相続税がかかる場合、適切な節税対策を相談できます。

  • 行政書士
    相続に関する書類作成や手続きのサポートを行います。遺言書の作成など法的に有効な書類を作成したり相続に関する相談ができます。

  • 司法書士
    不動産の登記を主に担当します。登記手続きに関連した書類作成のサポートを行います。

  • 弁護士
    相続人間でトラブルや争いが発生しそうな場合、法的な助言や調停・訴訟対応を行います。特に、複雑な相続問題が発生しそうなときに役立ちます。

まとめ

いかがだったでしょうか。

不動産は現金のように相続人間で簡単に分けることはできません。また一般的な相続の場合、不動産が相続財産の大半を占めるということも多々あります。そのため相続が発生すると相続人間で分割方法で揉めたり、考えてもいなかった相続税が課税されてしまい代々受け継いだ大切な財産を失うことにもなりかねません。

不動産については各種の税制優遇制度も用意されていますので、早い段階で専門家のアドバイスを得て相続の対策を考えておくことはとても重要なことです。

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