日本全国で深刻化している空き家問題は、少子高齢化や都市部への人口集中を背景に、地域経済や防災、治安に悪影響を及ぼしています。増加する空き家は、資産としての価値が下がるだけでなく、管理されないことで老朽化し、倒壊のリスクや犯罪の温床となるケースも。地方自治体や国は、税制優遇や解体費用の補助など、対策を進めていますが、根本的な解決には至っていません。この記事では、宅地建物取引士の資格を持つ行政書士が空き家問題の現状とその解決策について探ります。
この記事を読んで欲しい人
相続で取得した実家の処分に困っている人
空き家問題とはなにか知りたい人
実家には母親が一人暮らしをしているが自分は帰る予定がない人
親が高齢のため、相続対策をそろそろ考えたいと思っている人
空き家問題とは?
空き家問題とは、使用されていない住宅や建物が増加し、それによって生じるさまざまな社会的、経済的、環境的な課題のことを指します。特に日本では、少子高齢化や人口減少が進む中で、地方や都市部を問わず空き家が増加しており、これが深刻な問題となっています。
主な問題点
- 防犯・防災のリスク:空き家は管理が行き届かないことが多く、放火や不法侵入、犯罪の温床になる危険性があります。また、老朽化した建物が倒壊の危険性をはらむこともあります。
- 景観の悪化:放置された空き家は、地域の景観を損ない、周辺住民の生活環境に悪影響を与えることがあります。
- 地価の下落:空き家が多くなると、その地域の不動産価値が低下し、地価が下がることがあります。
- 経済的損失:空き家は土地や建物の有効活用がなされていないため、資産としての価値が減少し、経済的な損失が発生します。また、空き家の維持や撤去にはコストがかかるため、所有者にも負担がかかります。
- 税制上の問題:空き家でも固定資産税が課せられるため、所有者にとっては維持費の負担となりますが、税収が減少する地域も存在します。
(出典:政府広報オンライン)
日本の空き家問題の背景
- 人口減少と高齢化:日本の多くの地方都市では、人口減少により住宅の需要が減少し、空き家が増加しています。また、高齢者が死亡や施設入居などで家を手放す一方、相続人がその家を利用しない場合も空き家化が進みます。
- 都市への一極集中:若者の多くが都市部へ移住するため、地方の空き家が増加しています。また、都市部でも新しいマンションや住宅が建設され続ける中、地方の古い家が放置されることがあります。つまり大学進学を機に親元を離れて生活をし、卒業後家族を得て家を買う人が多く、親が亡くなった後も実家へは帰らないケースが多くなっているのが実情です。
- 相続の問題:親が亡くなった際に、その家を子供や親族が相続しますが、相続人がその家を使わない場合、空き家が発生します。特に、都市部に住む相続人が地方の不動産を持っている場合、手入れや管理が困難になり、放置されがちです。相続税や維持費の問題もあり、売却も難しいことがしばしばです。
- 不動産の市場価値低下:特に地方の一部では、不動産の価値が下がっており、売却や賃貸に出すことが難しい地域があります。その結果、売れずに放置される家が増え、空き家が生じます。また、都市部でも築年数が古くなった住宅は売れにくく、空き家化することがあります。
- 維持・管理のコスト:空き家の維持や管理には費用がかかります。家の修繕や固定資産税などが負担となり、所有者が積極的に管理する意欲を失うことがあります。その結果、手入れされず放置されるケースが増え、空き家となります。
- 住宅供給の過剰:日本では、戦後の高度経済成長期やバブル期にかけて、住宅供給が大幅に増加しました。特にバブル期以降、住宅の建設ラッシュが続いた結果、現在では住宅供給が過剰となり、需要を超える状態になっています。このため、余った住宅が空き家となるケースが増えています。
- 法律や規制の制約:日本では、古い住宅を取り壊す際のコストや、建築基準法の規制により、再建築が難しいケースもあります。こうした規制があるために、空き家が放置されることがあります。また、相続した家を売却する際の税制上の負担も、所有者が空き家を持ち続け放置する要因の一つです。
空き家の実情
令和6年5月4日総務省の調査結果によると、全国の空き家の数は住宅全体の13.8%にあたる900万戸となり、過去最多になりました。空き家の数は人口減少や高齢化などを背景に各地で増え続け、30年前の1993年のおよそ2倍となり、住宅全体に占める割合も13.8%とこれまでで最も高くなりました。
都道府県別では、東京都が最も多く89万8,000戸、次いで大阪府が70万3,000戸、神奈川県が46万6,000戸などとなっていて、40の都道府県で前回の調査より増加しています。(NHK報道)
空地・空家の総面積の合計は九州の面積に匹敵しており、国土の狭い日本において看過できない状況です。
(出典:「令和5年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)(令和6年9月21日に利用))
空き家対策(法制度)
空き家が放置されると倒壊や安全面の問題のほか、ねずみや害虫の発生、不法侵入の発生など、衛生面や防犯面でも周囲に悪影響を及ぼします。また限られた土地の有効活用という面からもこの問題を早期に解決する必要があります。
空家法(令和5年改正)
空き家問題を解決するために空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)が平成26年に制定されました。
この法律では倒壊の危険性が高いなど、周囲に著しく悪影響を及ぼす空き家を、市区町村が「特定空家」に指定し、適切に管理するよう助言や指導を行い、それでも改善が見られない場合は勧告や命令を行います。所有者が命令に従わない場合、50万円以下の過料に処せれる場合があるほか、行政による強制撤去等の対応が行われる場合もあります。
そして令和5年、空き家の活用や管理等を一層進めるため、空家法が改正され、適切に管理がされていない「特定空家予備軍」の空き家も、「管理不全空家」として、所有者に指導などを行う対象となりました。
一般の住宅には、固定資産税などが減額される「住宅用地特例」が適用されますが、「管理不全空家」や「特定空家」への指導に従わず勧告を受けると、その税負担の軽減措置(住宅用地特例)が受けられなくなります。
(出典:国土交通省 住宅:空き家対策 特設サイト)
相続登記の義務化
これまでは相続で自宅を取得しても、「自分で住む予定はない」「処分するとしても価値がなく売れない」「取り壊すにも費用がかかる」「固定資産税など税金負担が重い」等の理由から、相続登記をせずに放置されるケースが多々ありました。
何十年にも渡り登記されずに放置された空き家は、その後何世代にも渡り放置された結果、だれが真の所有者なのか分からなくなり、行政としても対応が困難になります。民法では「所有権」は絶対の原則が保障されており、行政としても勝手に処分はできなかったのです。
このような背景から、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。その概要は以下の通りです。
- 相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
- 遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。
- (1)と(2)のいずれについても、正当な理由(※)なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。
- なお、令和6年4月1日より以前に相続が開始している場合も、3年の猶予期間がありますが、義務化の対象となります。
所有権絶対の原則は、所有者がその財産(不動産や動産)に対して自由に使用、収益、処分する権利を持つという法的な基本原則です。これは、所有者が他者の干渉を受けずに、財産を完全に支配できるということを意味します。この原則は、私的所有権を保護するための根本的な考え方で、特に民法や不動産法などにおいて重要です。
所有権絶対の原則の特徴
- 使用の自由:所有者はその財産をどのように使うか自由に決めることができます。たとえば、自宅を住居として使用するのはもちろん、賃貸に出すことや売却することも自由です。
- 収益の自由:所有者はその財産から得られる利益を自分のものとする権利があります。たとえば、土地を所有している場合、そこから生じる賃料や収益は全て所有者のものになります。
- 処分の自由:所有者はその財産を他者に譲渡したり、贈与したり、廃棄したりすることができます。これも所有者の自由な意思に基づき行われます。
所有権絶対の原則に対する制限
ただし、現代の法制度においては、所有権絶対の原則が無制限に適用されるわけではありません。以下のような場合には、所有者の権利が制限されることがあります。
- 公共の利益:所有者の財産が公共の利益に関わる場合、例えば都市計画やインフラ整備のために土地が必要とされる場合には、所有権が制限されることがあります。これには、土地の強制収用などが含まれます。
- 他者の権利との調整:所有権を行使する際に、隣接する土地所有者や第三者の権利を侵害してはならないという制約があります。たとえば、他人の土地を不法に利用することや、過剰な騒音を出すなどの行為は制限されます。
- 法律による規制:建築基準法や環境保護法など、法的な規制が所有者の自由な行動に制限を加えることがあります。例えば、特定の土地における開発や建築には、許可や制限が課せられることがあります。
公共の福祉との関係と現代における所有権絶対の意味
所有権絶対の原則は、個人の財産権を守るための重要な概念である一方で、公共の利益や他者の権利とのバランスを取ることが重視されています。そのため、所有権はあくまで「絶対的な権利」ではあるものの、社会的な責任や他者の権利を尊重する必要があります。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
相続の開始の直前において被相続人の居住用家屋やその敷地であったものを、相続により取得した個人が譲渡した場合には、その譲渡所得の金額について居住用財産の譲渡所得から3,000万円特別控除を適用できます。
(令和6年9月現在、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡に適用)
対象となる資産
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋(マンション等の区分所有建築物を除く)
- 相続の開始の直前において被相続人の居住用で、かつ被相続人が独り住まいであったこと(被相続人が相続開始の直前において老人ホームに入所した後に空き家となった建物であっても適用の対象となる)
- その家屋や敷地が相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと
譲渡の条件
- 相続の時から相続の開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間(譲渡期限)に譲渡すること
- 相続開始時から譲渡期限までの譲渡対価の合計が1億円以下の場合に限る
- 耐震リフォーム等をして譲渡時に一定の耐震基準を満たすもの、又は、居住用家屋を取り壊した後に、その敷地を譲渡すること。
特別控除額
複数の相続人等の共有の被相続人の居住用家屋とその敷地を譲渡した場合で上記の要件を満たしているとき、1人あたり3,000万円の特別控除があります。ただし令和6年1月以降の譲渡については、取得した相続人の数が3人以上の場合は1人あたり2,000万円となります。
特例の重複適用
相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税の取得費加算)とは選択適用になります。ただし自己居住用財産の買換え等の特例や自己居住用財産の3,000万円特別控除などとの重複適用は可能です。(自己居住用財産の3,000万円控除を同一年に適用を受ける場合は、特別控除の額は合計で3,000万円を限度とします。
申告要件
確定申告書に、地方公共団体の長等による「被相続人居住家屋等確認書」その他の書類を添付しなければなりません。
空き家対策(その他)
空き家バンク制度
「空き家バンク」は、地方自治体が空き家の情報を集約し、移住希望者や地元の住民に紹介する制度です。これにより、空き家の持ち主と利用希望者をマッチングし、空き家の有効活用を促進しています。多くの地方自治体では、空き家の賃貸や購入に際して補助金や税制優遇を提供し、移住者を増やす取り組みが行われています。
空き家のリノベーション支援
空き家の老朽化が問題となる中、リノベーションによる再利用が進められています。政府や自治体は、リノベーションに対する補助金や低金利ローンを提供し、空き家の改修を促進しています。改修後の住宅は、賃貸住宅やシェアハウス、商業スペース、コミュニティ施設などに転用され、地域の活性化に貢献します。
空き家の用途転換
空き家を住居としてだけでなく、他の用途に転用することも効果的な対策です。たとえば、空き家をカフェやレストラン、宿泊施設、アトリエ、コワーキングスペースとして再活用する事例が増えています。また、空き家を地域の交流拠点やコミュニティセンターとして活用することで、地域社会のつながりを強化する効果も期待されています。
移住促進と定住支援
多くの地方自治体は、空き家を活用した移住・定住促進政策を展開しています。例えば、若い世代や子育て世代に対して空き家を安価で提供したり、リノベーション費用を補助したりするプログラムがあります。こうした施策は、地方への移住を促進し、人口減少の抑制や地域活性化に寄与しています。
コミュニティ主体の空き家活用
地域住民やNPO、民間企業が主体となって、空き家の活用プロジェクトを進める動きもあります。これにより、地域のニーズに応じた活用が可能となり、例えば地域の特産品販売所や農産物の直売所として空き家を再利用するケースもあります。
民間企業との連携
民間企業と連携して、空き家の管理や再活用を進める事例も増えています。たとえば、リノベーション事業を手がける企業や、空き家のマネジメントを行う企業と協力して、効率的な空き家活用が進められています。
まとめ
いかがだったでしょうか。
空き家問題は、持続可能な社会の構築に向けて重要な課題であり、各地域で異なる対応が求められています。
また空き家対策は、地域社会全体の課題であり、所有者、行政、企業、コミュニティが連携して取り組むことが重要です。各地域の特性に応じた多様なアプローチが必要であり、長期的な視点で空き家問題の解決が図られています。
あなたが今お住まいの自宅、あなたのご両親がお住まいの自宅、その処分について早めに家族で話し合い必要に応じて行政や専門家と相談し、解決策を決めておきましょう。
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