相続は、財産や遺産を次世代に引き継ぐ大切な手続きですが、準備を怠ると残された家族間のトラブルや思わぬ税負担が重くのしかかることがあります。円滑な相続を実現するためには、早めの対策が不可欠です。本記事では、家族間の争いを防ぎ、税金を最小限に抑えるための具体的な方法など、上級相続診断士の資格を持つ行政書士がアドバイスをご紹介します。あなたの大切な資産と家族の未来を守るために、今からできることを一緒に考えていきましょう。
本記事の税金に関する記述は一般的な基礎知識を紹介するものです。
個別具体的な相続税の相談、計算は税理士に相談しましょう。
この記事でご紹介する各制度はそれぞれ個別の要件があります。専門家と相談して対策を立てましょう。
この記事を読んで欲しい人
相続について基本知識を知りたい人
相続対策が必要かどうか分からない人
自分の死後、家族が揉めないように対策をしたい人
親が高齢のため、相続対策をそろそろ考えたいと思っている人
相続対策は必要?
相続対策とは自分に何かあったときに残された家族が争うことなく円満で円滑な相続を限られた時間の中できちんと行うの「遺産分割対策」と、大切な財産を失うことなく引き継ぐための「相続税対策」があります。
特に下記の場合は相続で争う可能性があります。必要に応じて早めに対策を進めましょう。
- 相続税がかかる財産がある。
- 「うちには財産なんてないよ」「財産と言えるのは自宅くらいなもの」多くの人がそうおっしゃいます。しかし実際に調べてみると「思ったより自宅の価値が上がっていた」「大した金額でないと自分では思っていたけど、相続人が少なく多額の相続税が課税された」など、予想外のことが多々発生します。
まずは自分の財産がどれくらいの価値があり、相続税がかかるのか確認しましょう。
- 「うちには財産なんてないよ」「財産と言えるのは自宅くらいなもの」多くの人がそうおっしゃいます。しかし実際に調べてみると「思ったより自宅の価値が上がっていた」「大した金額でないと自分では思っていたけど、相続人が少なく多額の相続税が課税された」など、予想外のことが多々発生します。
- 相続人が2人以上いる。
- 相続人が2人以上いる場合、遺産の分割対策が必須です。「血とお金」は仲の良い家族の中でも思わぬ争いに発展しかねません。子供の配偶者、遠い親戚など、相続と直接関係のない人の意見や口添えなどで争いに発展するケースも多くあります。
- 相続人が2人以上いる場合、遺産の分割対策が必須です。「血とお金」は仲の良い家族の中でも思わぬ争いに発展しかねません。子供の配偶者、遠い親戚など、相続と直接関係のない人の意見や口添えなどで争いに発展するケースも多くあります。
- 離婚した配偶者の間に子供がいる。
- 前婚の配偶者との間に子供がいる場合や兄弟姉妹が多数存在する場合などは相続関係が複雑になるケースが多く存在します。誰が相続人となるのか、きちんと専門家に相談して確認しておくことが必要です。
相続対策5つのポイント
1.財産の評価額引下げ対策
相続税・贈与税における財産評価は原則として「時価」です。しかし、「時価」の把握を客観的に行うのは容易ではないことから、評価額を簡便に算出するために「財産評価基本通達」に基づいて財産評価を行うこととされており、その結果、時価は同じでも財産の種類によって評価額が異なります。
この財産の種類による評価額の違いを活用して、相続財産の評価額を引き下げる対策が財産の評価引下げ対策です。具体的には下記のような対策があります。
生命保険を活用する
生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があるため、相続税の対策として生命保険を利用するのは有効です。例えば、法定相続人が3人いれば、最大1,500万円が非課税となります。
- ポイント:相続税がかかるような財産を現金で持つより、生命保険に一部資産を変えておくと、相続発生時に非課税枠を活用でき、財産を圧縮できます。
不動産の有効活用
不動産は現金や株式よりも評価額が低くなる傾向があります。特に、自宅や賃貸不動産は評価額を大幅に引き下げることができます。例えば、賃貸用のマンションを所有している場合、賃貸に出していると固定資産税評価額や相続税評価額が下がります。
- ポイント:賃貸物件を購入することで、現金などの財産を不動産に変えると、相続時の評価額を圧縮できるため、相続税の負担を軽減できます。
小規模宅地等の特例を利用する
相続で取得した土地が、被相続人の居住用や事業用の土地であった場合、一定条件を満たすことで、その土地の評価額を大幅に引き下げられる特例があります。居住用の土地なら80%、事業用の土地なら50%まで評価が減額されるケースもあります。
- ポイント:自宅を相続する際に、この特例を適用すると、土地の評価額が大幅に引き下げられ、相続税負担が軽減されます。ただし、特例の適用には細かい条件があるため、事前に専門家に確認することが大切です。
事業承継税制の活用
中小企業の経営者が事業を次世代に引き継ぐ際、一定の条件を満たすことで、事業用資産や株式にかかる相続税を軽減または納税を猶予できる制度です。これにより、事業を継続する意志がある場合に、相続税の負担を抑えることが可能です。
- ポイント:事業承継税制を活用するためには、事前の準備や計画が必要です。特に株式を持つ企業経営者は、この税制を活用することで相続税の大幅な軽減が見込めます。
負債を増やす
相続財産から負債を差し引いた金額が課税対象になるため、借り入れをして不動産投資を行うことで、負債を増やして財産評価額を引き下げる手法です。上記の不動産の有効活用と併せて検討します。賃貸用の不動産を購入し、ローンを組むことで、現金を不動産に変え、評価額を下げるとともに負債を引き増すことができます。
- ポイント:負債を増やす戦略はリスクも伴うため、慎重な計画が必要です。また、単に借金を増やすだけではなく、効果的な資産運用の一環として行うべきです。
財産の評価額を正確に算定する
財産の評価額は税務署が算定しますが、正確に見積もれば、思ったよりも低い評価がつくことがあります。特に不動産や株式、骨董品などの評価は専門家に依頼して適正に行うことが重要です。
- ポイント:過大評価されないよう、事前にプロに財産評価を依頼して、適正な評価額を把握することが、相続税対策の第一歩です。
まとめ
相続財産の引下げ対策は、計画的に行うことが鍵です。生前からの対策や節税手段を活用することで、相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。ただし、各手法にはそれぞれ法的な条件やリスクもあるため、専門家と相談しながら慎重に進めることが重要です。
2.財産の移転対策
贈与などの方法により財産を移転しておく方法。「暦年課税制度による贈与」や「相続時精算課税制度による贈与」を選択することにより、以後に評価額が上昇する資産や収益を生む資産を贈与することも一つの方法です。
生前贈与を活用する
生前に少しずつ財産を贈与することで、相続時の財産を減らす方法です。「暦年贈与制度」では年間110万円までは非課税で贈与できるため、計画的に行えば相続税の対象となる財産を減少させることができます。
また「相続時精算課税制度」を利用すれば累計2,500万円(+年間110万円)まで贈与税が課税されず財産を移転することが可能となります。両制度ともに「贈与時の価格」が評価額となりますので、贈与後に価格が上昇した不動産でも相続税の計算においては有利になります。
3.遺言書の作成
不動産の相続で家族間の争いを避けるためには、遺言書を作成しておくことが重要です。遺言書に不動産の分割方法を明記することで、相続人同士のトラブルを防ぎ、円滑な相続を実現できます。
4.納税資金の確保
相続税は金銭一括納付が原則です。上記の評価引下げ対策と財産移転対策を行いつつ、万一のときに納税をどうするか、準備する必要あります。
生命保険の活用
不動産が財産の大部分を占める人の場合、金融資産が少なく相続が発生すると所有する不動産を処分しなければならない場合があります。先祖代々受け継いだ自宅を売却する必要に迫られたり、売却したくともすぐには売れない場合もあります。生命保険に加入することにより、相続人が受け取る死亡保険金を相続税の納税資金に充当することができます。
上記の財産引下げ効果とともに活用することを検討しましょう。
相続人ごとの納税資金の確保
相続税の納税資金の確保は、相続人ごとに行っておく必要があります。財産を相続した人は、その相続した財産に対する相続税を納付しなければなりません。他の相続人が代わりに納税した場合、贈与税の対象となります。
相続税取得費加算の特例
現金で相続税を納付することができない場合、不動産などを売却して相続税を納付することがあります。相続等により取得した財産を、相続開始の翌日から相続税申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10ヵ月以内)の翌日以降3年以内に売却した場合には、「相続税取得費加算の特例」の適用を受けることができます。
この特例は譲渡した相続財産に係る相続税額の一部を所得税・住民税における譲渡所得の計算上取得費とみなすという特例です。この結果、譲渡所得が小さくなり、所得税、住民税が軽減されるメリットがあります。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
相続開始の直前において被相続人の居住用家屋やその敷地であったものを、相続により取得した個人が譲渡した場合には、その譲渡所得の金額について居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用できます。
詳細は下記の記事をご参照ください。
5.遺産分割対策
相続財産の大部分が金融資産であれば、相続人が平等に分けることも可能ですが、相続財産のほとんどが不動産というケースは、平等に分けることは難しく、相続人間で大きな格差が生じることも多々あります。
その格差を調整するための対策を講じることは将来の遺産分割トラブルを防ぐために大切なことです。
6.成年後見制度の活用
「成年後見制度」は、判断能力が不十分な人を支援するための法律制度です。この制度により、精神的または身体的な理由で自分のことを適切に判断できない成人に対して、後見人が法律行為や日常生活に関する支援を行います。主に、財産管理や医療・介護に関する意思決定をサポートする役割を持っています。
日本では、成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」があり、法定後見は家庭裁判所が後見人を選任するのに対し、任意後見は本人が事前に後見人を指定することができます。この制度は、本人の権利を尊重しつつ、必要な支援を提供することを目的としています。
7.家族信託の活用
認知症や判断能力の低下に備えて、不動産管理を信頼できる家族に任せる「家族信託」も相続対策の一環として有効です。これにより、不動産の適切な管理や相続後のスムーズな承継が可能になります。
詳細は下記の記事をご参照ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
相続対策はあなたの資産を守り、家族を守り、生活を守っていくためになくてはならないものです。これらの対策は資産を次の世代へ遺す者の義務ともいえるでしょう。
日本には相続に関連する数々の特例制度が存在します。これらの制度は早めに手を打たないと間に合わないものが多数あります。それぞれの制度を上手く利用して老後の生活を家族と楽しみながら、円満、円滑な相続に繋げるために専門家の助けを借りて一日でも早い対策が望まれます。
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